AD2015隔離都市―ロンリネス・ガーディアン

two_hours2006-11-20


★あらすじ
 舞台は、成人の命を奪うウィルスが蔓延し、20代よりも年長の人間が死滅していく近未来の新宿。ウィルス蔓延前に新宿を脱出したが他に行き場もなく舞い戻ることになった「一樹」。一樹は、残り僅かな命の幼馴染リョウコと再び出会う。ウィルスで保護者を失った「ピティフル・チルドレン」としてリョウコに養われている歩と悠菜の双子とも一樹は次第に打ち解けていく。死の恐怖に怯えたかつての保護者から悠菜は虐待を受け、車椅子での生活を余儀なくされていた。
 ある日、悠菜の買う猿型のペットが惨殺されていることが発見される。しばらくして歩も何者かに殴打され怪我を負う。一樹はネット上の「ヴァーチャル新宿」で、何者かから「リョウコの職業を調査してほしい」と持ちかけられる。ただの公務員のはずのリョウコの正体が疑念にさらされるなか、とうとう歩が殺害される。自室で座ってコンピュータの作業をしていた歩は何者かによって正面から銃撃を受けて殺されていた。逃げようとした痕跡がなかったため、犯人はリョウコではないかと疑念はさらに深まる。
 「歩」を殺した犯人は、一樹やリョウコと同じマンションに住む若者だった。マンションから落ちて絶命した彼は養っていたピティフル・チルドレンの男の子を虐待していた。その男の子の証言から、一樹はリョウコがヨーヨーを使って犯人の若者がマンションから落ちるように細工したことを知る。だがそのヨーヨーは、リョウコの知らぬ間に、悠菜では届かない棚の上に戻されていたのだ。このことから一樹は、実は若者に殺されたのは歩ではなく悠菜だったことを知る。双子で外見の似通った二人は入れ替わっていたのだ。
 下半身が不自由だから「可哀想」と愛玩されることが、死を目前にしたリョウコにつかの間の安息を与えることを知っていた悠菜はしかし、リョウコが死んだあとも自立できるように仕事を覚えようとしていたのだった。リョウコは「ヴァーチャル新宿」の管理権を巡って命を狙われており、悠菜はその巻き添えを食う形で殺されてしまった。下半身が動かないため、座っているところを襲われて逃げられなかったのだ。
 リョウコが死に、残された歩は新たな保護者として一樹を選ばず、1人で仮想空間の管理者として生きていくと言う。だがリョウコの死に際しても歩は、「ピティフル・チルドレン」として愛玩されうる「悠菜」を演じきったのだった。

★特徴
 第一回ファミ通エンタテインメント大賞。
 あらすじをまとめるのに、上記のようにかなり長くなってしまうくらい込み入った話を、きわめて薄く書いてあるのが凄い。ネット上の仮想空間やそこの仮想のコミュケーション、人体に有害な黒い雨が降り致死のウィルスが蔓延する隔離された都市、双子や障害を使ったトリック、コミュニケーションの難しい子供の心理を代理する小動物など、SFとしては有り触れた設定を巧く組み合わせて独特の切なさを描いている。『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』と同様の絶望と希望とが提示されている。桜庭一樹らしい「絶望」としか言いようのない、保護者と被保護者との間の閉塞していく愛憎関係。そしてその絶望が濃いからこそ「人が変われる」という希望が対照的に明るく浮き彫りになる。

★感想
 桜庭一樹作品を読むのは『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』に続いてこれで二冊目。どちらも上記のように保護者と被保護者との間の閉塞していく愛憎関係の絶望と、そこから生き延びて被保護者が自立していこうとする姿が描かれている。これがデビュー作ということもあって、桜庭一樹という著者の性別が隠されていること、主人公の男性が「一樹」という名前であること、作中の仮想空間の仮想キャラクターの性別が偽装できたりすることが、本筋とは全然関係ないノイズを生んでいて面白かった。他の作品も読んでみたい。