イリスの虹

two_hours2006-11-28

イリスの虹 (電撃文庫)

イリスの虹 (電撃文庫)

★あらすじ
 ひとの「情報」を喰うハーピーが人々を脅かす町。ハーピーに情報を喰われた人々は「絶対孤独」の状態になり、誰からも見られず、ものにも触れられなくなってしまう。みずからもハーピーに襲われ、親しい友人を「絶対孤独」の状態にさせられた唐崎は、入洲帚に救われる。帚は意識と無意識をコントロールすることができ、また情報の「囁き」を聞くことができるが、能力を使うと若返ってしまうという病気に冒されていた。
 唐崎のクラスメートで、「人に忘れられる」という特性を持ってしまった川合由子もまたハーピーに喰われてしまう。ハーピーは川合と同化し、唐崎を狙う。唯一自分のことを忘れなかった唐崎に恋をしていた川合に影響されたハーピーは、次第に唐崎に惹かれていく。
 帚に正体を見破られたハーピーは町中の情報を取り込んで一体化し、帚を追い詰める。帚を庇って唐崎はハーピーに喰われてしまう。帚は若返ってしまうことを承知で能力を解放した。帚の能力が解放されると、情報は自らの「あるべき姿」に戻り、ハーピーに喰われて同化されたモノや人が元の状態に戻ってしまう。ハーピーは消滅してしまった。

★特徴
 特徴はハーピー=川合由子の描き方だろう。他人の情報を喰らって消化することでしか生きられない怪物としてのハーピー、クラスメートから忘れられ母と姉に捨てられ父から虐待を受ける川合。ハーピーは「姉」である帚と戦い、結局は消滅させられ、川合は母も妹もハーピーに喰われ、自分がいなくなって父が取り乱した様子がないことを知る。作者は『ときメモ』シリーズのノベライズもやってるけれど、幽霊を描いた作品『Astral (電撃文庫)』もあり、幽霊的なものにコダワリがあるみたい。ちょっと気になります。

★感想
 体言止めが多用されてて稚拙な文体だと思うんだけど、他方で、事物が「囁く」情報を虹色の光を放つ瞳で「見ながら」、溢れ返る人込みの頭上を、何本もの長いリボンを駆使して、大通りを挟んで向き合う二つのデパートの間を軽やかに飛び移るシーンや、クライマックスの、能力を解放して情報を「歌わせる」シーンなどは、映像化不可能とはこのことだとしか言い様のない、ある意味できわめて「文学的」な表現で感激した。
 コミュニケーションが遮断された幽霊的なもの、孤独なものが主題的といってもいいほど重要な位置づけを与えられていることや、上記の表現の素晴らしさが印象に残った。でも、エピソードの殆どは巧く組み合わされているとはいえ、やはりとても陳腐で辟易した。特に「女の子は男の子が守らなくちゃいけない」発言とか、ただ名前を覚えていただけで惚れられてしまうとか、もうちょっとどうにかならなかったのかと思う。
 前半では冷血な存在としてしか描かれていなかったハーピーが、川合と同化することで唐崎に惹かれるあたりは、しかし、ベタベタだけど、物語の主軸の動かし方としては好感が持てた。