ブギーポップは笑わない

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))

以下ネタバレを含む
☆あらすじ
 ブギーポップは、宮下の別人格。宮下は風紀委員の竹田の恋人。風紀委員長の新刻は竹田の後輩で、竹田に想いを寄せている。宇宙から人類の善悪を試しに送られたエコーズは、人類によって捕らえられて不完全なクローンを産み出されてしまう。その不完全なクローン「マンティコア」は、宮下たちの通う高校に侵入しクラスメートたちを殺すようになる。新刻のクラスメートの霧間は救世主同一性志向(=メサイア・コンプレックス)であり、正義の味方になろうとする。霧間に殺されたいと願う風紀委員の早乙女は、マンティコアと愛し合うようになり、霧間を狙う。霧間の親友の紙木城はエコーズと出会い、彼を匿うが、マンティコアに殺されてしまう。紙木城が想いを寄せていた田中と、風紀委員長の新刻は紙木城の消息を探る。マンティコアを追っていた霧間は早乙女に殺されてしまう。エコーズもまたマンティコアに殺されようとする。早乙女はマンティコアをかばって消滅し、エコーズは元の目的を遂げ宇宙に帰る。半死半生となったマンティコアブギーポップと彼の力を借りた田中が倒し、霧間もエコーズに生命力を分け与えられ復活する。
☆特徴
 高セキュリティシステムによって外界と隔絶された高校に通う男女数人が語るサスペンスホラー(ジャンルについて明るくないのでこの「サスペンスホラー」が妥当なのかどうかは保留)。伏線が伏線を生み、連鎖的に物語を展開していくのはクラシック音楽のようであり、それを考えると作中人物がワーグナーを口笛で吹くのも不自然ではないように思われる。
☆感想
 サイコホラーの手法で描く、SF学園モノという感じ。高セキュリティシステムは超能力モノではありがちな「結界」をリアルに出現させるのに成功している。もっと活かせる設定のようにも思われたけれど、それは自作以降に期待したい。サイコホラー的手法の安易な使用によって、登場人物の性格造形や暗い設定を家庭の事情に収束させてしまうのはいただけない。また、クライマックスの決着の付け方は圧倒的すぎて呆気にとられる思いがした。
 しかし結局、優しさが人間の存在価値であり、それは客観的には不可思議だけれど、不自由さや弱さによって運命が窮まったときにこそ肯定されるのだという宗教的な命題が、あの圧倒的なクライマックスの決着に表現されているのだと思えば、適切な描写だったのかも知れない。かつ、サイコパス的な登場人物の機微がクライマックスにおいても忘れ去られていないのは特筆すべきことなのだと思う。
 文体や人物の会話や服装の描写が生硬に思われたのも気になった。それはこれが前世紀の作品であり、かつブームによる洗練がされる前だったこと、そして何よりも読み手にとってはこういった生硬な空気感がある種の雰囲気を味わうために必要なものなのかも知れないので、読後の印象を損なうものではなかった。